インドと私と協力隊

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青年海外協力隊の派遣受け入れ再開へ インド [asahi.com] 

インド政府は、中断していた日本の青年海外協力隊の受け入れを再開する方針を決めた。東西冷戦さなかの70年代に西側主要国政府による国際協力ボランティアの受け入れを中止していたが、インドの経済開放などの環境変化とともに再開の機運が高まった。

4月に小泉首相が訪印した際、シン首相との間で原則合意に達し、国際協力機構(JICA)とインド財務省が最終調整をしている。早ければ年内にもインド側が派遣を要請する見通しだ。

インドへの協力隊派遣は、冷戦の影響で四半世紀も中断していた。それが今回めでたく派遣再開となり、現役の協力隊員としては嬉しい限りだ。

私がインドを訪れたのは5年くらい前になるだろうか。いわゆるバックパッカーでの旅行だったのだが、その時の思い出は今でも強く心に残っている。というのも、私が協力隊を受験しようとしたきっかけの一つは、この旅にあったといっても過言ではないからだ。

インドに行くきっかけを与えてくれたのは、遠藤周作の「深い河」という本だ。この本を読み終えた翌日には格安チケットを買い求め、2週間後にはインドの地にいた。今考えるとすごい行動力だが、学生の身分だから為せたわざかもしれない。

私は約一ヶ月の滞在期間のほとんどをバラナシで過ごした。バラナシとはヒンズー教の聖地で、日本でもガンジス河での沐浴シーンをよくテレビで見かけるので、ご存知の方も多いかもしれない。

私はここで毎日毎日同じ生活を続けていた。朝5時に起きて飯を食い、7時にガンジス河のほとりに散歩にいき、いつも河原で遊んでいるRajaという5歳くらいの少年と凧揚げをして遊ぶ。そして昼からは河を見渡せるドミトリーの部屋にて、沐浴をする人々、河を流れる流木や洗濯の泡、ゴミ、牛の死体、そして人間の死体などを眺めながら何かを考えているようで何も考えていない時間を過ごす。そして5時には早めの夕食を済ませ、8時か9時には眠りについていた。

毎朝一緒に凧揚げをしていたRajaは、最初から凧揚げをしていたわけではない。正確に言うと「凧揚げらしきこと」をしていたのだが、私に言わせれば、それはただのビニール袋に紐をつけたものを手に持って走るだけの行為だった。もちろん「凧という名のビニール袋」は地を這っているだけだ。

最初から観光などする気はさらさらなく、時間なら腐るほど持ち合わせていた私は、何の気なしにRajaの持っていた「凧という名のビニール袋」を切り開き、河で拾った小枝を使って骨組みを作り、紐を凧の中心点に設置した。時間にして30分くらいの作業だ。もちろん材料費も光熱費もゼロ。それでも凧は空高く飛んだ。

その日以来、Rajaとは毎朝約束することも無くいつもの場所で待ち合わせ、ひたすら凧揚げをして遊んだ。ガンジス河のほとりはいつも強い風が吹いている。その為即席で作った凧はすぐに壊れてしまう。私はそれを修理し、Rajaはその凧で疲れも知らず走り回る。

そのうちRajaのお兄ちゃんが姿を見せるようになった。年の頃10歳くらいだったろうか。陽気なRajaと比べたら、おとなしく静かな少年だった。最初は私に対しても強い警戒感を抱いていたが、Rajaの友達らしいということで、少しずつ話をしてくれるようになった。

そのうちお兄ちゃんは凧の修理を手伝ってくれるようになった。より丈夫でまっすぐな小枝を拾ってきたり、ビニール袋よりしっかりとした素材の麻の生地なんかもどこかから仕入れてきてくれるようになった。

そしてお兄ちゃんはある日、自分で凧を作りたいと言い出した。相変わらず暇な時間をもてあましていた私は、自分が小学校のときに教わった簡単な凧の作り方を教えてやった。自分が小学校の頃に身に付けた技術なので、お兄ちゃんも容易に理解し、すぐに作り方を覚えた。

その夜ふとベットでこの兄弟のことを考えていた。なんだかぼんやりとした感触なのだが、「もう自分は必要ないな」と思った瞬間だった。もう俺がRajaの凧を修理してやらなくても、お兄ちゃんが自分でやるだろう。漠然とだがそう思った。

私が今の協力隊活動の中で壁にぶち当たったり、方向性を決めかねているときには、いつもこの兄弟のことを思い出す。国際協力に必要なのは、「相手が実現したがっていること」に対して自分が出来る範囲で力を貸し、最終的には「自分が必要無い」状態にすること。この単純にして実現しがたい事実を教えてくれたのは、この兄弟に他ならない。

もちろん青年海外協力隊の活動においては、政治、文化の壁、言語の壁など様々な障害物が自分の前に立ちはだかる。時としてカウンターパートに腹を立て、フィリピンという国に腹を立て、そして自分にも腹を立てつつも、どうにか折り合いをつけながら活動をしなければならない。その点、子供相手の凧作りとはわけが違う。

しかし、自分の中の国際協力の原点はいつもここにあり、大切なことを忘れかけて突っ走ってしまいそうになったときは、いつもこの兄弟のことを考えるようにしている。そうすると、とても難しそうな問題が、とても易しく思えてくるし、前向きな思考にスイッチが切り替わる。

そんな、私にとっては忘れられないインドという地に、とうとう協力隊派遣が再開される。あの兄弟は今でも元気にしてるだろうか。

青年海外協力隊の派遣受け入れ再開へ インド - 国際
http://www.asahi.com/international/update/0721/004.html
外務省: 青年海外協力隊の派遣に関する日本国政府とインド政府との間の書簡の交換について
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/17/rls_0812d.html

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6 Comments

Sana said:

そっか、「深い河」でインドか。私はありふれていますが、
「深夜特急」で行っちゃいました。バナラシでは知恵熱のようなものを出し、
それでもひたすら河のほとりにいました。
また行きたいな。

ramo said:

トラバどうもありがとう。

「深い川」読んでから、私も無性に行きたくなったけど
実際に行ってないのが私なんだなと思った。
次の日に行動って、すごいね。

凧の一件はすごく興味深く読みました。
原点があるっていいね。

Proust said:

>Sanaさん、こんにちは。

>バナラシでは知恵熱のようなものを出し、
>それでもひたすら河のほとりにいました。

知恵熱が出るの、分かる気がするなぁ。なんか色々考えすぎちゃって、わけがわからなくなるんでね。

俺は実際に熱を出して、4日くらい寝込んでたけど・・・。

>ramoさん、こんにちは。

協力隊応募のきっかけはこれ以外にも色々あるけど、活動の原点はここにあるんだよね。

俺ももう一回インドは行ってみたいなぁ。なんせバラナシだけでお腹一杯だったので、ムンバイとか南部は全然行ってないしな・・・。

yamato said:

へーくにもインド行ってたんだねー
バラナシ行かなかったんだよなあ
南とか西とか行っちゃった。
インド行ってガンジス見てない、みたいな。

ちなみに職種は何なんだろね。
中国同様急成長するこの国には
どんな分野が求められるんだろ。

相手がしてほしいこと、をする。
かなり同感。
援助に限らず、彼女さんでも何でもそれが大事な気がする。
自分がいらなくなる、ってのも同感。
すっきりまとまってて、こっちもすっきり。

みっち said:

ほんのり感動した。
というか、すごいよかった。
自分が要らなくなる。
本当にその人のためを思うなら
これにつきるよね。

いつも素晴らしいテーマをくれてありがとう。
深い河読みたい!!

Proust said:

>yamatoくん、こんにちは。

>ちなみに職種は何なんだろね。

確かに気になるねぇ。ITはかなり進んでるので、今更システムエンジニアを派遣ってことはなさそうだしね。


>みっちさん、こんにちは。

「自分が要らなくなる」ように活動しているつもりではいたけど、実際は後任申請をすることになりました。

けどまぁ、自分がやれるだけのことはやりきって、次の人にいい感じにバトンタッチできればと思う今日この頃です。

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